チベット仏具について
■シンギングボールとは
チベット仏教の儀式に用いられる法具の一つです。
僧侶が修行の過程で、瞑想や悟りの手助けとして使用します。
シンギングボールによって奏でられる倍音やボールを持った掌に伝わる振動は、
身体に染み渡り、気を活性化させ、癒しと無我の境地を与えます。
【シンギングボールの使い方】
以下の要領で倍音を体感してみて下さい。
1.ボールを左の掌に載せ、右手に心棒を持ちます。
2.心棒でボールの外側をたたき、音を響かせます。
3.ボールの縁の外側の部分に沿って、心棒を擦り当てながら
ゆっくり何度も回します。(写真右)
すると『クワーン』という倍音と共に、左手に振動が伝わってきて
なんとも言えない癒しの気分を味わうことが出来ます。
※心棒を回す速さや強さなどによって反響する音色が異なってきます。
何度も練習して、自分の好きな音色を探し出して下さい。
■ティンシャとは、
チベット仏教の儀式に用いられる法具の一つです。
僧侶が修行の過程で瞑想を行う際の、始まりと終わりに使用します。
始まりのティンシャは、場の浄化と瞑想に入る心得のため、
終わりのティンシャは、現実世界に戻るために使用します。
また、ティンシャから奏でられる音は、気を静め集中力を増進させることなどから、
修行僧のみならず心や身体の治療として、様々な場所で活用されています。
【ティンシャの使い方】
ティンシャの鳴らし方は主に三通りです。
1.上下斜めに.......(写真左)
ティンシャの両端を持ち、上下斜めに重ねて縁と縁を当てます。
チベットで最もよく見られる鳴らし方です。
2.シンバルのように.......(写真中央)
ティンシャの両端を持ち、片方のティンシャは動かさず、
もう片方のティンシャをシンバルを叩くように
上方に向けてそっと当てて鳴らします。
3.水平にして.......(写真右)
両手でティンシャの紐を持ち、ティンシャを水平に保ちながら、
紐を動かしてティンシャの側面を当てて鳴らします。
※ティンシャから奏でられる音には、
その時の自分の気持ちが表れると言われています。
自分の心を確認したり、迷いを払拭したり、気を静めたりと、
ティンシャの音を長く長く響かせてその音色に耳を傾けながら、
今日の自分を見つめ直すのもいいでしょう。
■マニ車とは
マニ車には様々な様式のマニ車がありますが、
真言を唱えながら手で回すものが一般的です。
手で回す小型のマニ車を「マニ・ラコー」(写真左)と言い、
チベットの老人たちは時間が許す限り、一日中この「マニ・ラコー」を回します。
僧院などにあるマニ車は「マニ・ラカン」(写真中央)と言い、
大きなものでは高さ3メートル、直径4メートルのものまであります。
その他、自然の力を利用して回転させるものもあり、
川や滝の水力で回るマニ車「マニ・チュコー」や、
灯明の熱で回る紙製のマニ車、
自然の風で回るマニ車などもあります。
マニ車に巻かれている経文「スン」の中身も様々ですが、(写真右)
大多数は観音菩薩の真言である「オム・マニ・ペメ・フム」です。
「オム・マニ・ペメ・フム」が何千回、何万回と繰り返し書かれており、
その分量はマニ車の大きさによって異なります。
中にはパドマサンバヴァ(蓮花生大師)、ジャンパルヤン(文殊菩薩)、
ドルマ(タラ菩薩)などの真言もみられます。
心を込めてマニ車を回せば、
回した分量の真言を唱えたことと同じ功徳があると言われています。
■ティルブ(金剛鈴・ガンター)とドルジェ(金剛杵・ヴァジュラ)とは、
チベットでは通常二つ組み合わせて使用されます。
参拝時には両方を持参するのがならわしです。
【ティルブ(金剛鈴・ガンター)とは】
チベット仏教の儀式に用いられる法具の一つです。
女性原理をあらわし、智慧の象徴として左手に持ち、
邪気を祓うように使用します。
【ドルジェ(金剛杵・ヴァジュラ)】
チベット仏教の儀式に用いられる法具の一つです。
男性原理をあらわし、煩悩を抑え、方便を表し、
右手に持って場を浄化するよう使用します。
■オム・マニ・ペメ・フムとは
6つの文字は「オム・マニ・ペメ・フム」(Om・Mani・ Pedme・Hum)と読み、
「白蓮華の宝珠よ、幸いあれ」という意味で、
チベット仏教においては慈悲の化身である観音菩薩の
この真言を唱えることによって、
悪業から逃れ、徳を積み、苦しみの海から出て、
悟りを開く助けになると信じられています。
■6つの文字の解説
オム(Om)
私たちの不浄な身体・言葉・思考とともに、
高尚純粋な釈迦の身体・言葉・思考を表しています。
「悟りの道を開いて純粋な境地に到達したとき、
過去の不浄から負の属性を取り除き、
不浄な身体・言葉・思考も変わることが出来る」と釈迦は説いていて、
その意味がこの言葉に集約されています。
マニ(Mani)
宝石を意味します。
秩序、慈悲、他者への思いやりなど悟りを開くための要素を表します。
「宝石が貧困をなくすことができるように、利他主義的な悟りの境地は、
貧困・孤独を取り除くことができます。
宝石が私たちの望みをかなえてくれるように利他主義の心によって悟りを開き、
私たちの望みは実現される」とダライ・ラマは説いています。
ペメ(Pedme)
蓮を意味し、知恵を表します。
泥の中に生えていても泥に染まらない蓮は、
私たちを矛盾から救い出す知恵の本質を示しています。
フム(Hum)
分離できないものを意味します。
秩序と知恵が調和することにより至る純粋なる境地を表します。
■タシ タギェ(tashi dajie) とは、
八吉祥紋様と呼ばれるチベット仏教の幸運のシンボルです。
写真左から順に
1.宝傘ドゥク(gdugs)
厄難をさえぎり、悪しきものから人々を守り平安をもたらす仏教守護を意味する傘
2.金魚セルニャ(gselna)
輪廻からの解放の象徴として世俗の中で自由に泳ぎ回る解脱の境地をあらわす
3.宝瓶ブムパ(bumpa)
宝または聖水である甘露で満たされた瓶は金運、財運の象徴
4.蓮華パドマ(padma)
泥に染まらず花開く蓮の花は煩悩の泥土の中から悟りの花を開かせる菩薩の徳の象徴
5.ホラ貝トゥン(dun)
釈尊の教えが広く衆生に響き渡るように
6.盤ペルベウ(dpalbehu)
永遠の愛と絆の象徴
7.勝幡ギャルツェン(rgyalmtshan)
煩悩を対治して解脱を得るという悟りの勝利の象徴
8.法輪チュコル(hkhorlo)
仏の説法の真理の輪の回転
■ナムチュワンデン(十相自在)とは
チベット仏教の時輪金剛宗では、
その最高教義を7つのサンスクリット文字と
3つの図案を組み合わせて
「ナムチュワンデン十相自在図」に表しました。
7つのサンスクリット文字の読音は
藍色の「哈(無色)」
紅色の「日/阿(火)」
黄色の「拉(地)」
白色の「哇(水)」
黒色の「洋(風)」
彩色の「瑪(欲)」
緑色の「恰(色)」
をそれぞれ表しています。
また3つの図案は、
「半月形太陽(智)」「圓点(身)」「竪筆画(虚空)」を意味します。
壇城は、「東」「南」「西」「北」「東南」「西南」「西北」「東北」「上」「下」
などの「十方」と
「年」「月」「日」「時」
などの「時空」「宇宙」「世界一切の自在」を組み合わせています。
直接の意味は「力を持つため」
つまり「自分の意のままにできる」ということを表します。
寿命、心、願望、業、生、解、神力、資本、法、知恵が自在となり、
また、東、南、西、北、東南、西南、西北、東北、上、下などの「十方」と、
年、月、日、時などの時空や宇宙、世界一切の自在が得られるとされています。
■ルンタ(タルチョー)とは
魔除けや祈りを込めた経文を印刷した旗のことで、
チベットでは家の屋上や寺の中央、山頂、峠、橋や水辺などに掲げ、
「ラーソル」(土地の精霊や仏を拝み焼香すること)という慣わしを行います。
新年の祭りや宗教的な行事などの時に、その土地や家の悪霊や災難を祓い清め、
すべての生きとし生けるものが平和で幸福と健康に恵まれて過ごせるようにという
願いが込められています。
「ルンタ」の起源は、チベットに仏教が伝来する以前、ボン教の時代に遡ります。
最初の「ルンタ」は、「ギャルダル」(勝利旗)、「マックダル」(軍旗)、
「ルダル」(軍隊や遊牧民が団体で移動する時の旗印)として、テリトリーを表し、
悪霊を祓い土地の精霊に祈願するものとして用いられてきたようです。
チベットに仏教が伝来し信仰が浸透するに連れ、ルンタも少しずつ仏崇拝と融合し、
仏教的な象徴として使用されるようになって、旗の形や模様も変化し、
それに対する考え方も徐々に変わってきたと言われています。
■ルンタの絵について
旗の中央には「風」「速さ」を象徴する馬が描かれていて、
これは、願いごとが早く成就することを意味します。
馬の周りに虎(タク)、雪の獅子(センゲ、日本語では「麒麟」と呼ばれる架空の動物)、
鳳凰(キュン)、龍(テゥク)が描かれています。
生命力を高め、幸運、富、健康に恵まれるようにという願いが、チベット語で
書かれています。また、タラ菩薩の真言、観音菩薩の真言「オムマニペメフム」などが
印刷されているものもあります。
ルンタは、主に青、白、赤、緑、黄の5色の旗で作られ、
青が空、白が雲、赤が火、緑が水、黄色が土を象徴しています。
また、一説には、旗を掲げた後に早く旗が破損した方が、早く願いが成就すると
言われているそうです。
■アチェラモ(チベタンオペラ)とは
15世紀、
カルギュ教派の僧であるタントゥン・ギェルポは
雪で往来が困難になる地方の川すべてに
橋を建立しようと計画したものの、
3年経ても資金が足りず、どうしようかと
思案していた頃、信徒の中に美しく聡明で、
歌も踊りも上手い七人の姉妹を見つけ、
彼女たちで劇団を作りました。
仏教の物語をベースに、これを呪術師の
儀礼舞踊に仕立て、各地で上演しながら信徒を増やし、
橋を造るための経費を集めました。
これがチベット演劇の基です。
このためタントゥン・ギェルポは、チベット演劇の生みの親とされています。
また、チベット演劇は仙女のように美しい
七人の姉妹が演じたため、
「仙人のような女性」という意味の
「阿吉拉姆(アチェラモ)」と呼ばれるようになりました。
17世紀に入ると、
チベット演劇は宗教儀式から切り離され、
歌を中心に、詩、舞踊、アクロバットが混じり合った
歌劇へと発展していきました。
チベット演劇の伝統的な演目は多々ありますが、
数百年の間に淘汰されたものも多くあり、
現在の主要な演目は8つです。
「文成公主とネパール公主」、「朗薩唯蚌(ナンサ・ウーブム)」、
「蘇吉尼瑪(スクキニマ)」、「卓娃桑姆(ドワサンモ)」、
「諾桑法王(ノーサン王子)」、「白馬文巴」、
「頓月頓珠」、「赤美滾丹(ディメクンデン)」
これらの演目はチベットのみならず、
四川省、青海省、甘粛省、雲南省の五つの省
や自治区にまで伝えられています。
画像左は古いタンカに描かれた、マスクを付けながら舞踏をしている様子。
真ん中は実際にマスクをつけて舞踏をしているところ。
右は現存する初期のマスク。
koko